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交錯世界

むーたんの一次創作を投げ込むブログです。絵も文もきっとあります。

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  • 2016⁄11⁄05(Sat)
  • 21:40

2017年2月新刊予定「境界の森」冒頭部

序章

 

 

日本と似て非なる国のこと。数十年前まで鎖国をしていたことが嘘のように異国文化が沁みつき、「異端」が「当たり前」に変わろうとしていた時代。しかし服装等はまだ従来の姿も残っている頃のことだ。従来の和服姿もあれば、異国文化の洋服も広まり始めていた。以前は男尊女卑が当たり前だったのだが、少しずつ女性も尊厳を持ち始めていた頃であった。女性も強くたくましく、女性が通う女官学校では薙刀を揮う女学生たちが楽しそうな表情を一変させて凛々しい姿を見せていた。

「軸が曲がっていたわ。お気を付けになって」

「まぁ、ありがとう」

ふふふっと上品そうな笑みを浮かべる女学生たちを、枕を抱えながら見つめる女学生がいた。

女学生の名は柏木(かしわぎ) 小鈴(こすず)。名家である柏木家の生まれである小鈴だが、身体が大層弱々しかった。いつも室内から外を眺めることしかできなかったのだ。

「お嬢様、あんまり暴れられて何かございますと困ります」

「暴れてなどいないわ、まだ……」

救護室にあるベッドに横たわる小鈴は不貞腐れたように潜り込んでしまった。小鈴の世話役が困ったような表情をしながら小鈴に布団をしっかりと被せた。自由に思いっきり動ける他の人達が妬ましかった。すぐに発作が起きるその弱々しい体を憎んでも一生付き合わなければいけない己の体である事実は変わることはないのだ。

「今日の迎えまで、大人しく寝ていてくださいね」

「分かっていますわ」

少し体調崩せば迎えを呼ばねば帰れないことをいつも情けなく思っていた。同じような日々の繰り返しに溜息しか出なかった。

 迎えが来てもらって家に帰ってからも部屋からは出られない。病気のせいで嫁の貰い手がいない小鈴は肩身の狭い思いばかりであった。世界は病床しかないのかと思いそうになるほど、行動できる範囲は狭かった。両親とはほとんど顔を合わせることもなく、顔を合わせても親と娘の距離とは思えないほどに遠かった。まだ、どんな病気かも詳細が明らかになっていない病であったがために実の親子であろうと近寄るには覚悟が必要であった。そんな中でも、親の目を盗んで様子を見に来る年の離れた妹がいた。その妹はドアを開けて少しだけ開いて覗き込んでいる。

「おねえちゃん、いる?」

「那月。お姉ちゃんの部屋に来ちゃダメって教えたでしょう?」

「なつき、おねえちゃんとなかよくなりたいの」

「お姉ちゃんは那月と仲良くする気はないの」

あっち行って、というような仕種をするとシュンと項垂れながらドアを閉めて部屋から遠ざかって行くのを感じた。まだ小さい妹にはこの病気がよく分からないのだろう。何も分からないということがどれほど怖いことなのかということを分かっている大人は近づかないものだ。無邪気な妹を近づけて、妹に病状が出た日にはもうこの家にはいられなくなるだろう。そうでなくても存在をなかったかのように扱われる日々、いずれ追い出されてしまうようなことは薄々勘付いていた。

「この家を、出よう」

どうせ、居てもいなくても変わらない。寧ろ疎まれてすらいるこの扱いづらい邪魔な存在がいなくなるのは良い事かもしれない。そんな気持ちすら湧きあがってしまうこんな環境にいるのは良くないこと、そう思い込むことにした。

 

 誰にも気付かれないで部屋から抜け出すことは容易いことだった。夜、食事を持ってきてくれる使用人から食事を受け取って部屋の前に置いてある台に食器を置いておいてから部屋の電気を消して小鈴専用の裏口から出るだけだ。その日はもう使用人は小鈴の部屋の近くには来ない。来ても小鈴が部屋にいないことなんて気付かないことだろう。部屋の電気が消えているのはその日は早く休んでいる、と誰もが疑わないだろう。翌日、いなくなったことに気付かれても、捜索届なんて出すわけがないのだ。もし誘拐されたとしても見て見ぬ振りしてくることだろう。そんな娘など知らない、それで片が付いてしまうのだ。

「案の定、普通に出て来られちゃった。別に構わないわ」

灯りもなく、暗い夜道はいつもなら少し怖いのだけれど、いつもなら行くことのできないような場所にも行けると思うとワクワクした。夜コッソリと動くことにも消えかかっていた子供心をくすぐられた気がした。

見慣れない道、暗闇が続く道。壁を頼りにしながら頼りなく歩き続けた。朝までにどこか遠くへ、そんなことだけを考えて足を動かし続けた。たまに発作がでて落ち着くまで待つことはあれども、すぐにでも見つからない場所へと行きたかった気持ちが小鈴の足を動かし続けた。

 どこまで歩いたのだろうか。慣れない運動に足がガクガクしてしまい、座り込んでしまった。止まると動けなくなるとはわかってはいたが足が動かないのだ。筋肉までどこかへ落としてきてしまったかのような感覚に陥った。だけど、諦める訳にはいかなかった。このまま、卑屈に生きるよりは苦しくとも自由に生きられる道を選びたかった。

 疲れからか、だんだんと意識が朦朧としていった。その時、不思議な感覚に包まれた。まるで、暖かく包み込んでくれるような温もり。優しい春の香りが鼻孔をくすぐった。春真っ盛りの昼間のような感覚に陥った。気の早い春の香りに誘われて歩いて行くと、周りは光に包まれていて季節外れな花びらが頬を撫でた。ここは、どこなのか。天国なのか。でも、家にいるよりも優しい風に涙が零れ落ちた。まるで、小鈴を優しく包み込んでくれるような気持ちだった。

「や、やっと見つけ……」

安堵から力が抜けて崩れ落ちたが、地面に身体が触れる前に優しい春の香りに包まれた。誰かに抱きとめられたということに気が付いた。その人からは優しい香りがしていた。遠くから声が聞こえてきたが、唇をなんとか動かそうとしながらもその安心からか意識を失ってしまった。

 

目覚めた時には簡素な造りの見覚えのない家のベッドに横たわっていた。

「よかった、気が付いたんだな!」

見たことのない赤髪の男性が横たわった小鈴の目線に合わせてしゃがみ込んで安心したように笑っていた。見たことのない服装で、異国の人であろうということは小鈴にも分かった。服では隠しきれない鍛え上げられた筋肉を持つこの男性に、ドキっとしてしまった。

「今すぐあいつを呼んでくる!」

「あ、あっ……」

小鈴が話す間もなく飛び出して行ってしまった。とても忙しない方だ、とは思っても、本当に心配してくれている表情を那月以外に向けられることが、久しぶりでなんだか嬉しくなった。そんな幸せな気持ちのままゆっくりと起き上がってみようと試みるが、思いの外、体が怠かった。それだけ無理してしまったのだろう。苦笑せざるを得なかった。   

周りを見回すと、一面の緑しか見えなかったので、自然に囲まれた小さな家にいるということが分かった。深呼吸をしてみると優しい香りに包まれていて、とても気持ちが良かった。こんなところで療養した方がよっぽど病気は良くなりそうだ。とても素敵な環境であることはこの空気を吸うだけで分かった。

目を瞑ってこの自然を体感していると、慌てた様子で二人分の走ってくる音が聞こえた。しかし、ドアは恐る恐る開けられたことから、小鈴を気遣ってくれていることが伝わってきた。様子を見ながら赤髪の男性と赤髪の男性に連れて来られたであろう紫髪の男性はほっと胸を撫で下ろした。

「気が付いたんだね。よかった。気分はどうかな?」

「あ、えっと……大丈夫です」

紫髪の男性はまさに美形の長髪の男性だった。二人とも素敵な男性で、免疫のない小鈴はドキドキしながら二人を見つめた。すると、小鈴は空気がふわりと変わったのを感じて意識を失う前に感じた香りに気が付いた。

「た、助けてくれてありがとうございました……」

「ほんと、ビックリしたんだぜ!いきなりぶっ倒れるんだもんな」

あはは、と笑いながら赤髪の男性は気さくに話しかけてきた。紫髪の男性はどこか神秘的なものを感じてこちらから触れてはいけない儚さを感じてしまった。

「俺はセンリ・イグリードっていうんだ。そっちは春(はる)()。君は?」

春翔と呼ばれた男性は苦笑を浮かべながら見守っていた。春翔は文句を言いたげだが、センリは全く気にする様子もなく小鈴に振ってくるのだ。一瞬にして春翔は苦労しているのだろう、と勘付いてしまった。

「私は、柏木(かしわぎ)小鈴(こすず)と申します」

「カシワギ コスズ?あぁ、つまり東の国とかそこらへんか?」

「そうだろうね。君とはいろいろ真逆の暮らしをしていただろう。その装いからも由緒正しき和国の時代の女の子かな?ということは、君の親は心配しているかな?」

「心配しているわけがない」

小鈴の柔らかい雰囲気からはかけ離れた低いトーンの声で即答したものだから、センリと春翔は思わず顔を見合わせてしまった。小鈴は、迷いなく答えたがこれには自信があった。のたれ死んだって責任を追及されなければなんとも思わないことだろう。やっと厄介払いできた、と喜んでいるのではないだろうか。

「家を出て来たのか?」

小鈴はコクリと頷いた。言葉にならなかったので動作で答えるしかなかった。確かに家を出たのだが、そうでもしなければ自由にはなれないと確信していた。だから全く後悔していない。心残りは那月のことだけであった。

「私は、帰りたくない……自由になりたい」

小鈴が俯きながらこぼした言葉を聞いて、センリは近づいてから小鈴の目線に合わせるためにしゃがんで小鈴の頭を撫でた。

「よく、がんばったな」

何かを追及するわけでもなく、責めるわけでもなく、ただ「がんばった」と言ってくれたことに涙を流した。その一言で救われた気がした。

「申し訳ないが、君の病気を完治はできない……すまない。原因を取り除いても病気の根源は絶てないらしい。だが、君を苦しめるものを取り除き続けることはできる。君が帰りたくない、というのならばここに居ればいい。ここは環境が良い。君も家で病室に引き籠るよりはよっぽど進行は遅れるだろう」

春翔のその言葉に、小鈴は春翔がこの苦しみを和らげてくれたことに気が付いた。そして、まるで小鈴がどのような環境で生きて来たのかを知っているかのような口振りだった。

まさに、その通りだと思った。自室に閉じ込めることで良くなるとは思えなかった。

「でも、私の病気はあなたに移ってしまうかもしれない」

「それはないと思う。君がそう伝えられてきたなら理解が乏しいだけだろう。この病気には感染力はない。君の命だけを蝕むものだ。それに、私は君の病気が移っても死ぬことはないだろう」

「なんせ春翔は無敵なんだよな!だから大丈夫だ!俺もかかる気はしない!春翔が感染力ないっていうならそういうことなんだろ!」

「センリは病気の方が全力で逃げ出しそうだよ」

「まぁな!俺に恐れをなして裸足で逃げ出すだろうよ」

どや顔で言ってのけるセンリに小鈴はクスっと笑ってしまった。なんだか本当に彼らにはこの心配は無用のようだった。そして、病気とか関係なく接してくれる彼等に気持ちが落ち着いた。

「ここは君を受け入れているよ。だから、ここにいる分にはなんの心配もしなくていいんだよ。だって、ここは受け入れざるものを異世界から巻き込むなんてことはしないだろう。私の力で世界を繋いでいるんだから」

春翔もセンリに並んで小鈴に視線を合わせて笑みを浮かべた。不思議な場所とは思ってはいたが、思っていた以上に不思議なのかもしれないと感じた。

「ここは、どこなのですか?」

小鈴が気になっていたことを聞くとセンリが困った顔をしながら春翔を見ると春翔もまた困った顔をしながら顔を見合わせた。

「ここは境界の森。異世界をつなぐ森。この森がたまたまつながっていた訳ではなく私が異世界とこの森を繋いで此処を拠点としているんだ」

小鈴は春翔のその言葉にだんだん理解してきた。名前の響きは近いものの、とても神秘的な存在であった春翔。明らかに異国の人であろうセンリ。明らかに異端であることが感じられた。でもそれを言うならば、小鈴自身も世界から追いやられたような存在であった。友達もロクにいない、自分の存在を認める者もほとんどいない世界。それもまた異端とも言えた。なので、常識を取っ払って受け入れてみようと考えた。

「貴方たちは何者なのですか」

「俺は魔物狩りを職業とする者だ」

「私は、信じられないかもしれないけど魔物だ」

センリの言葉も十分驚いたが春翔の言葉に耳を疑った。今彼は「魔物」と言っただろうか。しかし、人間となんら変わらない彼が魔物だなんて信じられなかった。それともそんなものなのだろうか。小鈴が必死に頭を動かしていたら、センリが慌てて春翔の肩を抱いて弁解してきた。

「ご、誤解はしないで欲しいんだが春翔は確かに魔物だが、俺のパートナーでもある。俺達は二人で悪さをする魔物を狩っているんだ。それに、こう見えて人間寄りの魔物で強い味方なんだ」

「し、四季といって地上に住まう四季を司る化身なんだ。私は春の化身で、魔界とかに住むような魔物じゃなくて……」

春翔もあわててそう説明すると、小鈴はなんだかそんな二人がおかしくなって声をあげて笑ってしまった。

「ちがうの、そんな夢みたいな話って本当にあるんだなぁと思ったの。すごい、お伽噺みたい!冒険とかそういう話聞きたいわ!それに、魔物って悪魔とかそういうもの?人と全然変わらないのね!」

そう言って小鈴は楽しそうに話した。窮屈すぎる現実から夢の世界に迷いこめたような素敵な出来事に思えた。その楽しそうに話す様子に少しは不安には思う部分はあったが、センリは話始めると嬉々として語っていた。その様子を、春翔は微笑みながら見守っていた。

センリは春翔の力で廻ったいろいろな世界の話をした。砂漠の国、水の都、山に囲まれた国、文化の栄えた国、未来都市のような国。全てが夢のような話だった。ありきたりなお伽噺のような夢だけの話ではなく、結末のない物語のような話で聞いたことのないものばかりで胸が躍るようだった。世界はあの家だけではない、世界はずっとずっと広いのだ。

「世界は、広かったのね……!本当に夢みたい。とっても素敵な時間だったわ……」

小鈴はそれだけでも胸がいっぱいになった。あわよくばそんな世界を体験してみたかったのだが……。だけど、事細かな話がそれは嘘ではないことが分かる。それだけでも幸せな気持ちになったのだ。

「ありがとう。とっても楽しかった」

小鈴は立ち上がれそうだと感じて立ち上がろうとしたら、春翔はゆっくりと肩を抑えてベッドに再び座らせた。小鈴は意図が良くわからず首を傾げた。

「君がどこかに行きたいというのならば、連れて行ってあげよう。君がここに迷い込んだのも何かの縁。何度も言うようだけどここは環境がいい。それに君は自由になりたいのだろう?君の手助けになれるかもしれない。だけど、病状が安定するまでは連れてはいけない。万全の状態になってからね」

「そうそう!俺がいろんなところ連れて行ってやるよ!だから、少しでも良くなるように頑張ろうな」

小鈴は二人の申し出に思わず目を瞬かせた。二人は受け入れてくれようとするのだ。偽善じゃないのかもしれない。いや、彼らにとっては偽善なのかもしれない。今ここですぐには判断できないけれど、「受け入れてくれる」という事実に涙が零れ落ちた。那月以外に味方らしい味方がいなかった小鈴はそのことだけで息が苦しくなった。自分の勝手な気持ちだけでなく、認められたことに嬉しくなった。

「ここにいても、いいのですか」

「出かけることも結構あるからいつも一緒には居られないかもしれないけど、それでも良ければ」

「そればっかりはなぁ。食っていかなきゃいけないしなぁ。春翔が家出なんてしなけりゃなぁ」

「え、そこ私のせい?」

「あったりめーよ!」

「人のせいにしているとまた吊るすから覚悟してね」

「おーおー、おっかねーな!」

二人の会話は聞けば聞くほどおかしなものだった。真面目に考えていたことがバカみたいに思えるほどに。

「あははっ、本当におかしいですね。ご迷惑でなければ、よろしくお願い致します」

小鈴がぺこりと頭を下げると、センリが豪快に小鈴の頭を撫でた。それを「やり過ぎだ」と制する春翔だが、そんな二人からは悪意は伝わってこない。恐らくは善意であるだろう。なんだかんだ元気付けようとしてくれることに嬉しくなった。

こうして、迷いこんだ森で不思議な生活が始まったのであった。

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